その「少女」はゆっくりと顔を上げ…あたしのダブル・デリンジャーの銃口の先で微笑んだ。
「あなたも…私と同じなんでしょう?」
GOTHIC 〜The Age of Innocence〜
シャルロット外伝
紅玉の女王
1959年 あたしは花の都パリに来ていた。ららら〜シャンゼリゼ〜☆ え?あたし?あたしはシャルロット…シャルロット=ビヌシュ☆ 真紅のドレスがトレードマークの純情可憐なフランス乙女☆ 年齢?え〜っと(汗)…もぉ〜、レディに歳の事聞くなんて失礼よ!…なんちて〜、テヘッ☆
「や〜っぱいいわね〜パリは☆…ねえ、JF?」
「…ん」
この超無愛想なデカ男はジェンソン=フィッツジェラルド…でも長ったらしいんで、あたしはJFって呼んでる。戦場で死にかけてたところを、ドロボ…いや、たまたま通りかかった(笑)心優しいあたしに拾われた…ま、あたしの家来みたいなモンかな☆
「な〜によも〜!リアクション薄いな〜…ほらエッフェル塔よ、エッフェル塔!ドドーン!とでっかくって、こうババーン!って感じでしょ〜!もっと感動しなさいってば!」
どうしたらいいかわからず無表情のまま頭をポリポリ掻くJF。
「…は〜…もういいわ…ったくぅ」
「…すまん」
ちっちゃい子どもをあやすように、あたしの頭の上に手をポンと乗せるJF…大きくてゴツくて煙草臭い手。
「こら〜!子ども扱いすんなっての!それに、また隠れて煙草吸ってたでしょ〜!」
あたしは、棒立ちのまま途方に暮れているJFを無視してスタスタと歩き出した。
「もぉ、さっさと今日の宿に行くわよ!今夜は仕事なんだから!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「ふぅ…ほんっとにボロいホテルね〜…でも、ま…この値段でシャワーが使えるだけマシか」
ブツブツ文句を言いながら、壁のひび割れたカビ臭いシャワー室で、冷たいシャワーを浴びる。
「しっかしなんなのよ…どこのホテル行っても親子親子って…親子じゃないっつ〜の!失礼しちゃうわね〜!…コホン……ま…ホテル代は子ども料金で助かっちゃうけど〜」
テヘッと舌を出して、我ながら現金な性格だな〜と思いつつ…ふと自分の身体を見やるあたし…
「…ちっちゃいな〜…色んな意味で…ガクッ!」
ひたすら落ち込む…orz
「親子…か…やっぱそう見えるよね〜…むむ…」
オッパイを寄せて上げてみるなどと無駄な悪あがきを試みるも、無い物はこれ以上寄せようも上げようもないのであった…チッ。
「…JFは…どう思ってんのかな…」
『あの日』以来、JFとあたしは…その…何度かはしてるんだけど…毎回なんか成り行きっぽいっていうか…。それは単なる同情や慰めで…JFにとってあたしは娘や妹みたいなもんなんじゃないかって、時々不安になる。
「…子どもじゃ…ないもん…」
そっと下腹に指をすべらせ、ピッタリと閉じた縦スジをそっとさすってみる…。
「…んっ…」
そのまま指で広げ、グリグリと中指を入れてみようとしてみたけど…
「…痛っ!」
ダメだ…全然入んない…そう…何度経験しても変わらない…身体が裂けちゃいそうなくらい痛くって…血だらけになって…。
「…むうううう!」
なんかムカついてきた!あたしは毎回こんなに痛い思いしてるのにぃ〜…本気じゃないならヤルなっての!勝手に一人で頭に血が上ったあたしは素っ裸のままシャワー室を飛び出すと、拳を握ってJFを怒鳴りつける。
「ちょっとJF!」
椅子に座って新聞を読んでいたJFは、こちらをチラリと見た後…再び新聞記事に目を落としながら一言こう言った。
「…風邪引くぞ」
あまりの素っ気ない−あたしの裸なんか全く意識してない−様子にあたしは怒りを通り越して情けな〜い気分に…トホホ〜。
「…は〜…もういい…」
バスタオルを身体に巻くとそのままベッドにゴロンと倒れ込む…ったく…風邪なんかひくような『普通の身体』なら苦労しないっての。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
その日の深夜…『仕事』の為にあたしたちはサントノレ通りにある有名宝石店の店内にいた。もちろんそんな時間に店が開いてるハズもなく…どうやって入ったのかは企業秘密という事で☆
「おっかしいわね〜…ちゃんと予告状出しといたのに警備が全然いないじゃない…つまんないの」
予告状をわざわざ出すのは、仕事にスリルを求めてるから…って事にしておこう。(ちっちゃい頃−今でもちっちゃいなんて突っ込みは無し−娼婦館のママン達が読んでくれたアルセーヌ=ルパンの影響があるのかもしんないのは内緒だ)
「まあ、いいわ…さっさと終わらせ…ん?」
人の気配を感じ、愛銃のエンフィールドNo2MK1を構えるJF。その先には…眼鏡をかけたガリガリの中年男が一人立っていた。
「やあ…良く来たね」
薄気味悪い笑みを浮かべた男を、あたしは『この店の店主』だと直感した。情報によると、ここの店主は奥さんと別れて、今は娘と二人暮らし…店主のあまりの宝石狂ぶりに奥さんは愛想を尽かして出て行ったらしい。なんでも、役人にカネを渡して旧植民地から強奪した宝石を横流しさせているとか…とにかく悪い噂の絶えない人物だ。
「あなたが…ここの御主人?」
「そう、私が主人のハリーだ…で、本日はどのような宝石がご入り用かな?お嬢ちゃん」
ふてぶてしい態度の店主に、あたしは言い返す。
「そうねえ……全部頂くわ☆」
銃口を向けたまま、店主に近づくJF…その時、店主の口から思いがけない言葉が飛び出した。
「…ジェンソン?…ジェンソン軍曹なのか?」
店主の顔を見て狼狽するJF。
「俺だよ、ハリー曹長だ…シチリア戦線で同じ部隊だった…」
その時、店主の後ろから不意に声がした。
「…お父様?」
それは、まさに「フランス人形のような」と形容するに相応しい…透き通るような白い肌とクリクリの金髪をした美しい少女だった。
「お父様の…お友達なの?」
少しおびえた表情で、店主に駆け寄る少女。
「おお…フランシーヌ…そうなんだ、古い知り合いだよ…」
店主は少女を抱きしめると…いきなり懐の銃をJFの胸に突きつけた。
「なあ、ジェンソン!」
パン!と乾いた音が店内に響く。一瞬の隙を突かれ、胸を押さえて倒れるJF。
「ひゃははは!あの時も教えたはずだ!撃てる時には躊躇せず撃てってなぁ!」
店主は驚き震える少女を抱きしめたまま狂気の表情で笑うと、今度はあたしに銃口を向けた。
「さあ…お嬢ちゃんも送ってあげるよ…」
「…それはどうかしら」
「!!!」
轟音と共に壁のガラスケースまで吹っ飛ぶ店主。起きあがりざまのJFのアッパーが炸裂したのだ。
「…そう…あんたはそういうヤツだったな…思い出したよ」
何事もなかったかのように平然と立ち上がったJFに驚愕する店主。
「…たしかに心臓を撃ち抜いたハズ…ま…さか…」
「フン…ただの弾丸くらいじゃ死なないって〜の…あたし達はね」
壁際でへたり込む店主にそう言い放つと、あたしは部屋の真ん中で呆然と立ちつくしている金髪少女に声をかけた。
「さあ、いい子だからアンタは寝室に戻んなさい…子どもは寝る時間でしょ☆」
下を向いて、かすかに震えている少女…そして…
「フッ…ククッ…フフフフ!」
肩を震わせ笑う少女に、店内の空気が凍り付く。ただならぬ気配に、とっさにあたしは持っていたテディベアーの中から愛用のダブル・デリンジャーを取り出した。少女はゆっくりと顔を上げると…あたしの銃口の先でニッコリと微笑んだ。
「あなたも…私と同じなんでしょう?」
その無邪気な微笑みと、どこまでも達観した物言いに…あたしは確信した。こいつはあたしの『仲間』…いや、『敵』なのだと。
「あなた…何年生きてるの?」
「え?」
唐突な質問に戸惑うあたしを見つめながら、少女は言葉を続ける。
「私は…もう400年くらいになるかしら…」
「よ…400年?…あ…あたしはそんなに〜…」
(ババアじゃないから)…と言いかけてグッとこらえる大人なシャルロットちゃん☆
「私たちにとって時は永遠…一体何を拠り所にこの退屈な時間をつぶすのか…私はずっとそればかり考えて生きてきたわ」
「へ〜、いい御身分だこと」
「あら…あなただってそうでしょ?暇つぶしでなきゃ、こんな子供じみた怪盗ごっこなんてするはず無いもの」
「なっ?こ…これは生きるための手段であって…」
「くすっ、おかしな事を言うわね…生きるための手段なんて何もいらないはずでしょ?だって死ねないんだから…第一、盗むだけならこんな予告状なんて出す必要ないじゃない」
悪戯っぽい瞳で、少女はあたしの予告状をひらひらとかざす。
「な〜んだ、ちゃんとあるんじゃないの。届いてないのかと思って心配しちゃった☆」
動揺しながらも、あくまで強気に言い返すあたし。
「私はこの400年色んな物を見たわ…世の中の『秩序』が根底から崩れ去る瞬間も何度も見てきた…そして、人間達なんて所詮移ろいやすく愚かな生き物だって事がイヤって程わかったの」
「『人間達なんて』って…あたしたちだって人間でしょ〜が…」
その瞬間、無邪気な微笑みを絶やさなかった彼女の表情が一瞬険しくなる。
「違うわ!決して移ろうことなく常に不変の存在であり続ける私たちは…いわば『神』よ」
「…か…神ぃ?…はぁ〜?頭おかしいんじゃないの?」
完全にイっちゃってる誇大妄想発言に呆れるあたしの前に、少女は燃えるような赤色をした巨大なルビーのネックレスを取り出してみせた。
「ほ〜ら、綺麗でしょ…このルビー、植民地の神殿の像から取ってきたんですって…まさに私に相応しい宝石だと思わない?」
うっとりと巨大なルビーを見つめる彼女の瞳を見た時、あたしは全てを理解した…宝石狂なのは店主ではなく、この少女の方なのだと。
「退屈で退屈でしかたがないこの私の、ささやかな楽しみはたった二つだけ…一つは世界中の宝石を集める事…」
いつのまにか、JFに吹っ飛ばされたハズの店主が少女のそばにゆらりと立っていた…手には、柄に宝石をちりばめた剣を持って。
「そしてもう一つは…私と同じ者達との戦いで『死』のスリルを味わう事」
店主は少女を後ろから抱きしめると首筋にキスしながら持っていた剣で彼女の左手首を傷つける…彼女の細く白い手首から滴った血が、銀色に輝く剣の刃を紅く染め上げていく。
「JF!」
JFはサバイバルナイフをあたしの胸に当てると、撫でるように優しくそっと刃を這わせる。黒光りするナイフの刃に血が滴り、JFの拳と共に紅く染まっていく…。
「あらら、私の宝剣相手にそんな短いナイフ一本で戦うつもり?言っとくけど、ハリーは強いわよ…私の僕だった今までの13人の中ではダントツ」
「…じゅ…13人?」
この浮気者!…って思ったものの、よく考えると400年で13人って多いのか少ないのかよく分かんないな〜…などと一瞬悩んだ隙に、店主の鋭い突きがJFを襲う。
「…くっ!!」
速い。なんとか間一髪でかわしたJFだが、その腕には剣が掠り血が滲む。
−あたしたちは他の『不死者』の血が直接心臓に入らない限り、死ぬ事はない。血染めの剣であっても心臓を貫かれない限りは死なないのだ。だが血染めの剣で負った傷は普通の傷に比べて治るのに時間が掛かってしまう。(普通の傷なら一瞬で治るのだが…)傷を負うのは圧倒的に不利なのだ−
「そんな獲物で俺に勝てるのか?え?軍曹〜!」
勝利を確信し狂喜の表情を浮かべる店主。あんなガリガリでガイコツみたいなくせに確かに強い…だが…
「JFの武器がナイフ一本?…ふっ…あんたたち勘違いしてんじゃない?」
JFはあたしの血で紅く染まった拳を開くと…中に握っていた紅の弾丸をリボルバーに素早く装填する。
「言ったでしょ…『ただの弾丸』じゃ死なないって」
あたしがそう言うのと同時に、剣を振りかぶった店主の心臓めがけ引き金を引くJF。
「…!!」
乾いた発射音の後…振り上げた剣を落とす店主。
「ば…かな…」
「…『撃てる時』を見誤ったな…ハリー曹長」
JFのつぶやきと共に、店主−ハリー曹長−の身体は白く結晶化し…みるみる崩れ落ちていった。
「あ〜あ、負けちゃったぁ…つまんないの」
少女は口をとがらせながら肩をすくめる。
「…ま…『負けちゃった』って、あんた…」
目の前でパートナーの男が死んだというのに、少しも悲しむそぶりすら見せない少女にあっけにとられるあたし。だが少女はまったく意に介さず、さばさばした表情でこう言い放った。
「ま、いいわ…また他のを探すから」
「……」
無表情のまま、少女に銃口を向けるJF…だが、その眼には怒りが満ち溢れている。
「うふふ…またいつか『別の時代』に会いましょう…では、ごきげんよう」
少女は無邪気な微笑みを浮かべ、スカートの端を持ってちょこんと会釈した。
「ちょ…ちょっと待ちなさ…」
あたしがそう言いかけた瞬間、
「…!!」
床から凄まじい閃光と白煙が上がり…視界が戻った時には金髪の美少女−フランシーヌ−の姿はどこにも見あたらなかった。
「う…うぬぬぅ〜…ムッキーッ!おのれはニンジャかっつ〜の!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
数日後、あたし達はごっそり頂いた宝石をぜ〜んぶ売り飛ばして、超豪華ホテル『リッツ・パリ』のスイートにいた…相変わらず親子扱いはされたけど orz
(ただ、例の巨大ルビーをはじめ、あの店で一番高価な宝石数個は結局見つからなかった…多分あの宝石キ○ガイのフランシーヌが持ち逃げしたんだろうナ〜…チッ!)
「やっぱ豪華なホテルはいいわね〜…にゅふふ」
泡でいっぱいの大きな浴槽に浸かりながら、うたた寝をするこの幸せ☆
「あ〜…生きてるって素晴らしい〜☆」
そう…『死なない』と『生きてる』は全然違う。あたしは『死なない退屈』を紛らわすために生まれてきたんじゃないんだから…多分…きっと!
お風呂から出ると(今日はちゃんと服着て出たよ☆)JFが暗〜い顔で椅子に座っていた…ド〜ン…。
こないだの一件以来、ただでさえ無口なJFがいっそう無口になってしまった…しょうがないよね、相手が昔の知り合いだったんだもの…。よ〜し!こんな時こそ、このあたしが元気づけてやらねば☆…とは言うものの、一体どうしたらよいものか…う〜みゅ…。
「あ〜…オホン…あ、ほらほら、あれオペラ座よオペラ座!ほら、屋根裏に怪人がいるって噂の!そんでもってドーン!って現れて、こうパララーン!って感じで〜…コホン!…うんうん…やっぱ高級ホテルからの眺めは違うわよね〜☆ ね?JF!」
「…ん」
無表情のまま頭をポリポリ掻くJF。
「…は…ははは……こうなると思った〜…」
力なく笑うあたしの目の前に…JFはポケットから小さな指輪を取り出し、おもむろに差し出した。
「…これ」
「…へっ?…」
突然の予想外の出来事に大混乱に陥るあたし…
「えと……これって…どういう…」
「サイズがお前に合うと思って……売らずにおいた」
「…あ…そう……はは…ありがと…」
しばらくの沈黙…そして…
「…なあ」
「は……はい〜?(ドキーン☆)」
「…俺たちは…アイツらとは違うよな」
「…アイツら?」
…(ま、いいわ…また他のを探すから)…フランシーヌの言葉が頭をよぎる。
「な…なによぉ…もしかしてそれでずっと暗い顔してたわけ?…もぉ〜…バッカじゃないの?」
「……」
呆れると同時に…なんか…ちょっと嬉しい。
「もぉ…バッカだなぁ☆……んっ!?」
JFはいきなりあたしを抱きしめると…強引に唇を重ねる…少し煙草臭い…ねっとりととろけるような大人のキス。頭の奥がしびれて、ぼうっと意識が遠くなる…。

熱いモノがあたしの中にメリメリと食い込もうとする…指と舌でのたっぷりの愛撫でトロトロになっているとはいえ…絶対的に狭い。
「…いっ!…うううっ!」
歯を食いしばって侵入に耐える…痛い…痛い…身体が裂けちゃいそう…メリメリ…ブチブチッ!頭の中にそんな音がハッキリ聞こえる気がする。
「うあああ!」
あたしの一番奥までギュウギュウに詰まっているのを感じる…熱い…おなかの中でドクンドクンと脈打つ鼓動が聞こえる。密着したまま、唇を重ね舌を絡める…満たされた時間…涙を浮かべながら照れ隠しに強がってみた。
「もぉ…煙草臭いなぁ〜…煙草やめないと、もうチューしてあげないからね☆」
「……」
その日以来…JFは煙草を吸っていない。
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